046.ブラックリスト

 賞金稼ぎとして旅を続けるルイスに、半年前から一人の少女が同行している。『第一級の異能者』と呼ばれ、凄まじい力を行使できる少女、コレットだ。
 彼女には分からないことが多い。異能のことももちろんそうだが、それ以前に考えていることが読めなかったり、彼と出会うまでどのような生活を送っていたのか知らなかったりする。
 故にたびたび驚かされることになるのが、最近のルイスの悩みの種であった。

 二人はこの日、リクトワール国内にある大きな街にやってきていた。
 たくさんの人々と馬車が行き来しており活気に満ちた中心街。この様子ならきっと何か仕事にありつけるだろうと、ルイスは胸を弾ませていた。
 そのとき、隣から甲高い音が聞こえる。落ち込んだ犬の鳴き声にも似た切ない音。それが何かすぐに分かった青年は振り向くと同時に苦笑をこぼした。
「なんだ。腹減ったのか、コレット」
「――うん」
 紫の瞳に少女の姿が映る。彼女の大きな碧眼には感情が映らない。それでもルイスは最近、彼女が何を考えているのか分かるようになってきていた。今はとにかく何か食べたいらしい。
「そうだな、ちょうど昼時だし――どこかの食べ物屋で休憩するか」
 ルイスは硬貨の入った麻袋を掲げながら言うと、急かすようにコレットの背中を叩く。少女はこくんと首を縦に振ると、小走りになって彼の後を追った。
 やがて二人が見つけたのは、中心街のはずれにぽつんと佇む古民家のような食事処だった。寂しげな外観に反して、中からは人の笑い声が聞こえる。
「ここがよさそうだな」
 ルイスは満足げにうなずいた。そして扉を開けようとして――しかしそれを、コレットに止められる。
「ルイス。ここは、だめ」
「ん? なんでだ」
「ここには、わたしは入れない。『もう来るな』って言われたから」
 淡々とした一言を聞いて、男はぴしりと固まった。扉の前から一歩退き、まじまじと彼女の顔を見る。相変わらず何も思っていないような風情だ。ルイスは目を細めた。
「来たことがあるのか。……で、何をしたんだ」
 コレットのことだ。入店禁止になるようなことを、なんの悪意もなくしでかしていてもおかしくない。ルイスは何を聞いても驚く気がしなかった。そして案の定、彼女は起伏に乏しい声で答える。
「この店の中でけんかがあったの。みんなが困っているみたいだったから、それを止めようとした。そうしたら、お店の壁を壊したの」
「壁……まさかおまえ、異能を使ったんじゃないだろうな」
「使ったよ」
 もはや何も言えない。ルイスはため息をついて肩を落とした。
 ルイスが徹底的に「力に頼りすぎるな」と教えたおかげで今はすぐ異能に頼るようなことはない。だが、出会ったころは違った。だから嫌な予感はしていたのだ。していたのだが。
「本当にやらかしているとはな」
 頭を抱えてうずくまりたい気分になる。しかしそうしたところで何が変わるわけでもないので、ため息をつくにとどめておいた。
 首をかしげるコレットの頭に、優しく手を置く。
「そういうことなら諦めるしかないな。ほかの店を探そう」
「わかった」
 とぼとぼと歩きだす青年。その後ろから、少女はとことこと着いてきた。その背には奇妙な哀愁が漂っているが、本人たちが気付くことはない。
 結局二人は、このあと食堂付きの安宿で昼食をとったという。

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