眼の色が、変わった。夜色から、空色へ。

 

『な……!』

 周りにいた者は、絶句する。

 また、男も思わず叫ぶ。

「おまえまさか、天ぞ――」

 しかし、言葉は途中で途切れる。

 彼が、殴ったのだ。男の鳩尾を、思いきり。

「ぐふっ」

 変な声を上げて、男はどさりと地に落ちた。それを見下ろす彼の目は、どこまでも冷たい。

 まだ残っていた者たちは、震え、叫んだ。

「予想外だ……」

「なんだよ、コイツぁ……」

「ば、化物め!!」

 そのすべてを聞いてから、彼は笑う。

「化物結構。むしろ少し嬉しいかもな。彼女と一緒だ」

 言って、再び構えようとした時――

 

 真っ白な光が、辺りを包んだ。

 賊は悲鳴を上げる。しかし、彼の方は随分と冷静だった――

 

 光がおさまる頃には、彼を取り囲んでいた男たちは全員気を失っていた。その表情はどれも、恐怖に彩られていた。

 そんな男たちを見下ろしてから、彼は『彼女』に呼びかける。

「わざわざ迎えにきてくれたのか?」

 すると、彼の前に一人の女が現れた。艶やかな黒髪に、彼より少し明るい青の瞳。彼がよく知る人物だった。その『彼女』は、呆れたように言った。

「まったく、こんなところで何やってんのかと思ったら……。もう少し騙されないように努力とかしなさいよ、カイル」

 彼――カイルは反論すらできず、ただ苦笑した。そんな彼をみて、『彼女』は深いため息をついた。それから、何か思い出したかのように目を瞬く。

「そういや、あんたにも流れてたの? 一族の血」

 質問されてカイルも思い出す。先程、瞳の色が変化したことについて。やっぱり聞かれるよなあ……なんて思いつつ、説明した。

「ああー。なんか先祖の中に"持ってる"人がいたみたい。で、たまたま俺にその血が入ってたんだってさ。それだけのことだよ。だから俺の力は、フウナに比べたらずっと弱い」

 フウナと呼ばれた女は、笑う。

「まあ、力の強い弱いはいいとしても……。なんだ、それでか」

「え?」

「いや、それでこの子に強い力があるんだなって思って」

 フウナが言うと同時に、彼女の背中からひょっこりと小さな頭がのぞく。それを見たカイルは、納得してうなずいた。

「ああ、そうか。それで"あっちの血"が濃く出てたんだな。

……ていうか、連れてきてたのか?」

「うん」

 フウナがうなずくと同時に、背中から顔を出した『彼』の目がうっすらと開く。

「あれぇ……? おとーさんだ」

「あ、おはよう。ソラ」

 フウナが肩越しに振り返って息子に笑いかけた。それを見て、彼――ソラも眠たそうなまま微笑んだ。

「おはよー。おかーさん……」

 こっちまで釣られて笑ってしまう。

 そして、何だか温かい気持ちにもなった。

 そんなわけですっかり穏やかな父親になったカイルを見て、フウナは言った。

「それじゃあ行こうか。ソラも起きたことだし」

「そうだな」

 家族三人は、笑顔のまま歩き出した。

 

 その後、目覚めた賊たちが通りかかった警邏の者に捕縛され、ちょっとした騒ぎになるのだが。

 あの三人家族がそれを知ることはない――。

 

 

 

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父の旅 ―2―